ABI・PWVからみた動脈(血管)について
1.はじめに
日本透析医学会から出されている 血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン 2011 からの抜粋です。
「 わが国の透析患者の観察的コホート研究で,Non-HDL-C低値群(<100
mg/dL)に比較して高値群(≧130
mg/dL)では,心血管死亡リ
スクが有意に高く,相対リスクは3.62(95%信頼区間1.24-10.56)と報告されている。」と。
ちなみにNon-HDL-Cとは、動脈硬化のリスクを総合的に管理できる指標とか。
上記2011のガイドラインには、「成人血液透析患者における虚血性心疾患の予防において,一次予防ではLDL-C 120 mg/dL
未満,あるいはNon-HDL-C
150 mg/dL未満,二次予防ではLDL-C 100 mg/dL未満,あるいはNon-HDL-C
130 mg/dL 未満を管理目標とする。」と提起されている。
*
Non-HDL-C=TC(総コレステロール)−HDL−C(善玉コレステロール)で示される数値。
Non-HDL-Cとは、上記ガイドラインで提示された指標で、「すべての動脈硬化惹起性リポ蛋白中のコレステロールを表します。LDL(悪玉
コレステロール)だけでなく、TG(中性脂肪)リッチなリポ蛋白であるカイロミクロン(CM)やVLDL、脂質代謝異常により出現するレムナントな
どを含み、動脈硬化のリスクを総合的に管理できる指標です。」 と。 (「」内の引用は、http://www.kyowamx.co.jp/pdf/lipid/info18_lipid.pdf )
平成21(2009)年4月7日 Non-HDL-C=146−53=93mg/dL TG
134 LDL-C
75
平成25(2013)年12月16日 〃 =169−65=104 TG 68 〃 90
平成26(2014)年4月21日
〃 =159−61=98
TG 65 〃
81
平成27(2015)年10月26日 〃 =151−59=92 TG 73
〃
75
平成28(2016)年12月26日 〃 =154−66=88 TG 60 〃
74
平成29(2017)年4月24日 〃 =158−66=92 TG 87 〃
75
平成30(2018)年2月26日 〃 =167−73=94 TG 81
〃 80
平成30(2018)年10月1日 〃 =156−69=87 TG 82 〃 71
平成30(2018)年11月5日 〃 =167−86=81 TG 46 〃 80
過去数年内は、私のNon-HDL-Cは、低値群(<100
mg/dL)に納まっているようです。が、加齢と共に静かに動脈硬化は、進行しているよう
です。
2.ABI・PWVとは
「PWV(Pulse Wave
Velocity)とは,日本語では「脈波伝播速度」と言い、心臓からの拍動が伝わる速度から、血管の硬さをみる検査です。
.物質
は一般的に柔らかいと遅く、硬いと速く伝わる性質があり、動脈硬化が進み、動脈壁の弾力性が失われた硬い血管では、拍動は早く伝わります。
( PWV・CAVIは、血管の動脈硬化の診断なのでしょうか。)
ABI検査(足関節上腕血圧比)は、足首と上腕の血圧を測定し、その比率(足首収縮期血圧÷上腕収縮期血圧)を計算したものです。動脈の内膜
にコレステロールを主成分とする脂質が沈着して内膜が厚くなり、粥状硬化ができて血管の内腔が狭くなる「アテローム動脈硬化」の進行程度、血管
の狭窄や閉塞などが推定できます。」詳しくは、http://medical-checkup.info/article/56962632.html を参照されたい。
血管の石灰化等の進行度合いは、どちらかというとABI検査の方がいいのではと推測致しました。
H27(2015)年 H27(2015)
右足首 左足首 右足首 左足首 *
下肢閉塞性動脈硬化症の疑いは無さそうですが、しなやかという点
ABI 1.26 1.26 PWV 1474 1482 では、かなり失われているようで、平成29年では、その進み度合いは
H28(2016)年 H28(2016)年 同年齢の平均レベルを大きく超え悪化したようです。
ABI 1.01 1.05 PWV 1539 1576
H29(2017)年 H29(2017)年 動脈硬化のリスクを総合的に管理できる指標(Non-HDL-C)は、100
ABI 1.32 1.26 PWV 1752 1703 mg/dL以下でありますから、下肢閉塞性動脈硬化症の疑いは無いので
H30(2018)年 H30(2018) しょう。
ABI 1.20 1.23 CAVI 8.9 9.0 しかし、PWV・CAVI検査では、動脈硬化の疑いのある数値に近い。
*1
*
2 リスク管理Non−HDL−Cでは、私の数値では、進行度合いは、無い
ABI数値は、0.9以下の場合 PWV数値は、1400以下が かのような数値を示している。あまり重きを置く必要も無いのかも知れ
下肢閉塞性動脈硬化症の疑い。 しなやか。1600までは可。
ません。
*1
・・正常範囲 CAVI数値は、9.0以上で動
脈硬化の疑い。
*2・・血管の硬さは、60代後
半に相当とか。(当方70歳)
R1(2019)年8月14日(水) 10:01:21
ABI 1.24 1.28 CAVI 8.9 8.8 ABI正常値 0.91〜1.40 動脈の固さ(CAVI)正常値 〜8.9
R2(2020)年8月5日(水) 10:39:08
ABI
1.22 1.24 9.2 9.2
*
ABI等の検査では、不十分という論説に出会った。以下の記述は、そこからの抜粋。
「早期発見には血管石灰化のため,ABIの感度は低くTBIあるいはSPP(skin
perfusion
pressure)など末梢微小循環障害を捉えることが大切である。
ABIのみに診断を頼ると感度は著しく低く,0.9では特異度100%であるのに対して感度は30%となる.この点SPP
50
mmHgでは特異度が77%とやや落ちる
ものの感度が85%となりスクリーニングには適している.治療も積極的な血行再建は必須であるが,感染制御・栄養・リハビリを含めた集学的治療とす
べきである。」と。(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsvs/25/0/25_16-00075/_pdf
2016年発表論考より抜粋 )
*
転院先では、動脈硬化のリスクを総合的に管理できる指標(Non-HDL-C)に必要なTC(総コレステロール値)値は、調べていない。何故なのだろうか。
後日確認しましたが、「善玉と悪玉を足せば総コレステロール値になると。」Dr自ら言われていました。・・後で主任さんから主任Drに聞くように言われた。
複数のDrの回診ですので、細かなことまでは調整されていないかと。
転院先では、Non-HDL-C=TC(総コレステロール)−HDL−C (動脈硬化のリスクを総合的に管理できる指標)には、重きを置いていないかのようで
す。( 平成30年8月13日 お聞きしました。後日主任Drに話しましたところ、10月の血液検査より採用されるとか。)*
3.血管をやわらかくする方法
有酸素運動(散歩・ウオーキング)やストレッチ体操が効果があるとか。
詳しくは、http://donalsonvillecountryclub.com/?page_id=85 を参照されたい。
若い時から体が硬い人は、血管も硬い傾向にあるとか。コラーゲンが糖化すると起こる。有酸素運動は、体内の糖分を消化し、コラーゲンの糖化を防ぐ
のかも。組成の観点からの指摘でありましょうか。
4.長期維持透析患者の場合の血管石灰化
私の拙稿をお読み頂いた方であれば、血管が硬くなる場合に、血管の石灰化という現象が、透析患者にはあるという事も事実。
確かに私も若い頃から体は硬い方でありました。前屈では、足を揃えて延ばした状態で手先が、ひざ下位までしか届かない状況でありました。若いころ
から結構血管は硬かった可能性が高い。平成29年現在 今から3年前頃既に、PWV値は、両足共に1400を超えている。同年齢の平均値であり、立派
に老化現象を来している。更にここ1・2年で相当進行したと思われます。
PWV値の数値を単なる老化現象とだけ認識するには躊躇しているのが現状です。
私も既に透析歴 13年。骨・ミネラル代謝異常に悩まされていますから、血管の石灰化が起こっても不思議ではない。既に相当進行していた。
数年前から血管の石灰化における新たな仮説(CPP原因説)が提起され、石灰化が、慢性腎炎初期頃から体内で起こる事の説明がなされるようになっ
ている。
詳しくは、http://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/no_29-2.pdf
2014
日本透析医学会雑誌 V0L、29 No.2 を参照されたい。
上記pdfの表題は、「CKDの進行とCPP」。自治医科大学分子病態治療研究センター抗加齢医学研究部 黒尾 誠氏の論述であり、大変興味深い。
付記 1
・循環制御 第 38 巻 第 1 号(
2017)
表題「Klothoと老化、骨、FGF23」 黒尾 誠 ( https://www.jstage.jst.go.jp/article/ccm/38/1/38_19/_pdf 参照
)
上記pdfからの抜粋
「ネフロン数は加齢とともに減少することが知られており、70歳代になると20歳代の約半分にまで減少する。したがって、歳をとっても若い頃と同じ食生活をし
ていると、尿中リン排泄量は減らないので、ネフロンあたりのリン排泄量1.0
μg/dayを超えて尿細管障害から腎線維症に至るリスクが高まることになる。腎線
維症は慢性腎臓病のfinal common
pathology(最終的な一般的な病理名)であり、さらにネフロン数の減少を加速すると考えられる。」 と。
*
健常者でも、加齢により腎臓は、慢性腎臓病の最終終着点である尿細管障害から腎線維症に至るリスクが高まる危険性を指摘されている。
著者は、新しいリン制限の考え方を提起されている。
「高リン血症が慢性腎臓病の予後悪化因子に同定されて以来、血中リン濃度を下げることを目標にリン制限が行われてきた。しかし、高リン血症は慢性腎臓
病の末期症状で、ネフロン数が極端に減少したために摂取したリンが排泄しきれず、リン恒常性が維持できなくなったことを意味しており、もはや手遅れの感が
ある。一方、FGF23は慢性腎臓病の早期から上昇する。FGF23の上昇を残存ネフロン数に対してリン摂取が過剰であるサインと捉え、たとえ血中リン濃度が正
常範囲でもリン制限を開始するのが合理的と考えられる。この際、目標は血中リン濃度ではなくFGF23の正常化であり、目的は血管石灰化ではなく腎線維症の
抑制である。」と。
この指摘は、初期のCKD患者の前駆症状への対処について述べてみえるように推測する。長期慢性CKD患者となれば、血管の石灰化を遅延させる事は、
不可避的な事なのであろうか。先進的な透析病院の私が知る限りに於いてのDrには、末期透析患者では、血管の石灰化は、既定路線という共通認識である
ようです。
私は、専門家ではありませんが、血管の石灰化を遅延する為には、リンイオンとCaイオンの供給を出来るだけ少なくするしかないのではと推測している。
所謂、口から入る食物からのリンは、透析とリン吸着剤で、出来るだけ抑え、CKD患者や加齢な健常者の体内の骨から供給されるリン・Caイオンの量を減少
する方策をとる。抗加齢対策なのですが、破骨細胞の活動を出来るだけ抑え、出来るだけ骨形成の活動をする骨芽細胞の活動を助長し、バランスをとる事
はできないのであろうか。
明らかな骨粗鬆症でなければ、現在の医学では、対策はされないようですが、骨粗鬆症に至らなくても、相当の年齢に達した透析患者の場合は、早くから
加齢を抑える対処の仕方も有りではなかろうか。自然の節理には、反しますが・・・・。
*
血管石灰化をCPP原因説に立てば、体内でのCPPを出来るだけ抑える事に繋がる対策をすれば、血管の石灰化を遅延させえるのではないかと推測する。
要は、CPPにも、善玉と悪玉があるようで、どのような機序で、生成するのかは未知の領域ではありますが、悪玉は、善玉の熟れの果てと勝手に推測すれ
ば、善玉は、健常者でも体内の血管に存在し、善玉の増加が悪玉CPPへの転化のきっかけになっているのでは・・・・。専門家ではない私の独断と偏見の所
見にすぎませんが・・・・。*
骨粗鬆症対策を専門とする整形医でも、レントゲン(大腿骨部位)と血液検査にて、骨粗鬆症と判断されなければ、対策には至らないのが現状かと。加齢と
共に、骨量等は減少の一途をたどる事が自明の理であり、骨粗鬆症に至るまでは、様子見でしかない。予防医学的な対策は、健康保険対象の領域外である
かのようで、診療対象ではないのが、日本の保険制度であるようです。
血管の石灰化は、現在の医学では、直せる見込みのない未知の分野であり、今なお最前線では、研究対象の範疇でありますが、骨粗鬆症医が、血管の石
灰化対策の最前線での実践者になりえましょうか。しかし、痛みでもあれば、治療の対象になりましょうが、何せ痛みの伴わない血管石灰化は、治療対象とは
未だなり得ていない。現状に満足していない若き骨粗鬆症対処Drは、どこかにはいるのではなかろうか。もしみえるのであれば、協力は惜しまないでいます。