血管石灰化の機序

              1.はじめに
             既に、拙稿 http://jp2kik.web.fc2.com/kekkansekkaika.html 「 血管石灰化の恐怖とその対策」及び「 続 血管石灰化への道に至る過程の
            血液検査結果とコレステロール値の変遷」(http://jp2kik.web.fc2.com/zokukekkansekkaika1.html 参照)等で記述しております。

             あれから2〜3年経ちましたので、研究も進んできているであろうと思い、その成果やら記述してみたいと思いました。

           2.2015年段階の血管石灰化の研究水準
             「慢性腎臓病(CKD)によるミネラル代謝異常症のうち血管石灰化は透析患者の心血管系死亡の重要な危険因子であることが明らかにされて
            いる。
             血管石灰化病変はアテローム硬化症(atherosclerosis)にともなう内膜石灰化と動脈壁硬化(arterial stiffening)にともなう中膜石灰化に大別さ
            れ、CKDではいずれの石灰化病変も促進される。

                              *  「血管石灰化は,粥状動脈硬化巣の内膜石灰化とメンケベルグ型中膜石灰化とに大別され,後者の頻度が透析患者で特に高い。」
               この指摘は、日本透析医学会 血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン 2011版 からの引用です。
 
             内膜石灰化の発症には、マクロファージおよび血管平滑筋細胞(VSMC)のアポトーシス(細胞の自殺)に関連して放出される基質小胞とマクロ
           ファージに由来する液性因子 (サイトカイン、成長因子など) によるVSMCの骨芽細胞への形質転換の2つのプロセスが関与している。

            一方、中膜石灰化では、弾性線維を構成するエラスチンの断片化 (エラスチン分解酵素活性の上昇による) とATPおよびリン酸代謝調節系の異
           常によるピロリン酸の低下が重要な役割を担っている。

             * 多くの疫学調査から,CKDは蛋白尿が多いほど進行しやすいこと,蛋白尿は尿細管・間質障害を引き起こす可能性があること,CKDの予後
             は尿細管・間質障害の程度と強く相関することが明らかとなっている。
              近年,蛋白尿による尿細管・間質障害の原因として,尿蛋白に結合した脂肪酸の重要性が報告され注目されている。脂肪酸は主にアルブミン
                             と結合し循環しており,アルブミンと共に糸球体から濾過されると,近位尿細管に取り込まれ速やかに脂肪酸β酸化を受けATP合成に利用され
             る。糸球体障害などで,高度の蛋白尿が出現する場合には,尿細管の代謝能力を上回った脂肪酸が負荷され,代謝不全の脂肪酸が増加する
             ことで脂肪酸毒性が出現し尿細管障害を引き起こす可能性が示唆されている。」
              上記の記述は、https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinshumedj/58/1/58_1_17/_pdf 「PPARαの腎保護作用を利用したCKD治療の可能性」
             と題する信州大医学部附属病院腎臓内科 上條祐司氏の論考からの抜粋です。*

              とすれば、私の残腎部分の近位尿細管は、相当のダメージを受けた事になりましょうか。本来、近位尿細管に取り込まれ速やかに脂肪酸β酸化
             を受けATP合成に利用される筈ですが、そのATPが合成され難い状況になっているのでありましょう。
                               しかし、ATP{ATPとはアデノシン三リン酸 (Adenosine Triphosphate) のこと}は、腎臓だけで産生されているわけではないようです。細胞基質で
             たくさん産生されているという。
              詳しくは、http://www.stnv.net/med/atp.htm を参照されたい。

              更にピロリン酸の産生機序は、基質小胞や骨芽細胞膜でのPC-1(plasma cell membrane glycoprotein-1)および骨芽細胞膜でのANK(ankylosis)が
             細胞外のピロリン酸を産生する。これらのPC-1,ANKによるピロリン酸産生とTNSALP,さらにはそれによって誘導されるオステオポンチンなどの石灰
             化阻害因子が正常な石灰化過程を維持しているものと考えられ,これらの分子の異常により種々の石灰化異常をきたすとか。
              * ピロリン酸を分解してリン(P)酸濃度を増加させる組織非特異的アルカリホスファターゼ(TNSALP)とは、ALPとも、骨組織由来のALPは、BAPとも
              言われる。
              詳しくは、https://www.iyaku-j.com/iyakuj/system/M2-1/summary_viewer.php?trgid=1482 を参照されたい。

              更にアルカリフォスファターゼ(Alkaline Phosphatase: ALP)は細胞膜に存在する糖蛋白質であり、アルカリ性の条件下(pH9〜11)でリン酸エステル
             を無機リンとアルコールに分解する酵素である。この酵素であるALPは形成する遺伝子によって、4つの型(小腸型、胎盤型、胎盤様型、臓器非特異
             型)に分類することができる。このうちの臓器非特異型は肝臓、腎臓、骨組織で多く産生され、各々臓器特異的に糖鎖付加の修飾を受けることから、
             骨組織に特異的に存在するALPはBAPと呼ばれ、細胞膜に存在し、ホスファチジルイノシトール(Phosphatidylinositol : PI)を介して膜に結合している。
             BAPは骨新生に伴って骨芽細胞により4量体として算出されたのち、ホスホリパーゼによって分解され、2量体として血中に放出される。血中BAP濃度
             は骨芽細胞からの放出速度と肝臓でのクリアランス率の両者に依存する。その結果、骨芽細胞機能が亢進し、骨形成活性が亢進している時期には、
             血中BAPは上昇する。とか。
              詳しくは、http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1205_02.pdf を参照されたい。

              以上の事柄から、骨細胞から放出されるFGF−23(リン酸代謝調節ホルモン)は、腎機能の低下に伴い早くから放出されていることは、研究者の
             共通認識でありましょう。
              中膜石灰化では、弾性線維を構成するエラスチンの断片化 (エラスチン分解酵素活性の上昇による) とATPおよびリン酸代謝調節系の異常による
             ピロリン酸の低下が重要な役割を担っている。ピロリン酸(生理的な石灰化抑制因子)の低下ー> 石灰化を促進の方向へ と向かわざるを得ないこと
             になる。 

                              *   「エラスチン分解酵素は、1種類ではなく、何種類かの酵素を総称してエラスターゼと呼ばれるようで、セリンプロテアーゼ(すい臓エラスターゼ・
               好中球エラスターゼ)・メタロプロテアーゼ(マクロファージ由来のメタロプロテアーゼ)やマクロス・メタロプロテアーゼやゼラチナーゼ等が知られ
               ていた。」(東京農工大学 連合農学研究科所属森崎尚子氏の学位論文 「真皮線維芽細胞由来エラスターゼの本体の同定と皮膚老化および
               毛周期における役割」から引用。詳しくは、下記URL                                 
              https://tuat.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=1121&item_no=1&page_id=13&block_id=39
                を参照されたい。 *

              「透析患者は、健常者より虚血性心疾患・脳血管障害・心不全などの心血管疾患(CVD)による死亡リスクが著しく高く,相対リスクは10〜30 倍と示
             されている。CVD リスクの上昇は透析導入前から認められ,慢性腎臓病(CKD)のステージが高いほど段階的に上昇する。」と記述される日本透析医
             学会の”血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン 2011版”は、現実味を帯びてくる。事実そうでありましょう。
                                              
                          CKDにおける血管石灰化の促進機序には、炎症、高リン血症、カルシウム負荷、ピロリン酸代謝異常などが関与しているとも。
                         炎症の主体はマクロファージの局所への浸潤であり、エンドトキシン血症、尿毒症物質、高リン血症などによりマクロファージの反応 (炎症性サイト
                      カインの産生など)が増強される。

                        高リン血症は、直接血管平滑筋細胞(VSMC)に作用し、PiT-1による細胞内へのリン輸送を介して骨芽細胞への分化を促進するとともにGas6-Axl−PI3-
          Akt経路を抑制し、血管平滑筋細胞(VSMC)のアポトーシスを誘導する。
           * 私の場合、リンの値を極力ガイドライン基準値下限に設定すれば、相当の時間が稼げる可能性が高い。

           同様に、カルシウム負荷も血管平滑筋細胞(VSMC)のアポトーシス、基質小胞の放出を促進する。
                       * とすれば、Ca値をガイドライン基準値の下限でコントロールすべきではなかろうか。
 
           一方、ピロリン酸は生理的な石灰化抑制因子とされており、その代謝調節機構が障害されると異所性石灰化が引き起こされる。CKD では、ピロリン
         酸分解酵素として作用する組織非特異的アルカリホスファターゼ (TNSALP) の血管壁における発現が増加しており、局所のピロリン酸濃度の低下とともに
         リン酸濃度を上昇させ、石灰化を促進する。」
          上記記述は、  http://www.myschedule.jp/jsdt_archive/detail.php?session_unique_id=060-0150&sess_id=15064&strong=1 からの引用であります。

          *  ピロリン酸産生組織は、基質小胞や骨芽細胞膜でのPC-1(plasma cell membrane glycoprotein-1)および骨芽細胞膜でのANK(ankylosis)のようで、基
           質小胞は、骨芽細胞から分泌されている。しかし、「基質小胞には様々な酵素や膜輸送体が存在しており,Ca2+やPO4−の生成やそれらを基質小胞内
           部に輸送する仕組みが備わっている。基質小胞内でリン酸カルシウムの核形成が誘導されると,リン酸カルシウムの結晶が放射状に成長し,基質小胞
           の単位膜を破り外界へ露出するようになる。その結果,リボン状・短冊状を示すリン酸カルシウム結晶塊が放射状に集積した球状の石灰化構造物,すな
           わち,石灰化球が形成されることになるという。」(この部分の引用は、北海道大学大学院・新潟大学大学院との共同研究報告であります。
            詳しくは、https://www.iyaku-j.com/iyakuj/system/M2-1/summary_viewer.php?trgid=27807 を参照されたい。)            

            更に、「ビスホスホネート(BPs 骨粗鬆症薬)はピロリン酸の構造類似体であり,骨組織のリン酸カルシウム結晶に強固に結合する性質を有するとともに
           破骨細胞による骨吸収を抑制することが知られている。」(http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/52157/1/04-deyama.pdf からの引用)
            ということは、ピロリン酸もまた、同様な働きをすることにより、血管石灰化を阻害している可能性を推測する。・・私の独断。*

          以上の事から、今、現場で出来る私の血管石灰化の防止策としては、非糖尿病腎症である患者さんの今出来うる防止策としては、
           N0.1は、透析にてP・Caの除去率を上げる事。(現在補液10L/時を若干下げ、補液8L/時に変更し、小分子除去に透析液を回す事に尽きましょうか。)
           N0.2は、Pを吸着薬にてもっと吸着させ、排泄する事。
           N0.3は、PTHを出来るだけ下げ、体内からの骨吸収(骨を溶かす)からのCa2+供給を低下させる事でしょうか。(レグパラ錠に期待したい。) 
                 しかし、PTHは、吸収と形成双方に働きかけているやに。PTHのガイドライン管理目標値内とそれ程深刻にならなくてもいいのかもしれませ
                んが・・・・。
           N0.4 B2MG値について
               日本透析医学会のガイドラインには、「β2-MGは30 mg/L未満の達成を推奨、25 mg/L未満が望ましい」とするステートメントが加えられました。
              特に2008年の統計調査結果の解析では、Kt/V ureaでも調整されていることから、中分子物質のβ2- M G 濃 度 が 、小分子物質の透析量とは
              独立して、予後に関連する可能性が示唆されています。現在20mg/L台であり、補液量10L/時ではなく、やや下げた8L/時でも対応出来るのでは
              ないかと考えます。尿がまだまだ出ているようですから。

           * 「非糖尿病患者では年齢、透析期間、血清リン濃度の上昇、血圧、性差(男性)、糖尿病患者ではHbA1c、透析期間が血管石灰化に関連することが
            示唆され、この検討結果でも糖尿病患者の血管石灰化には血清リン濃度の関与は認められなかった。」( 上記の引用は、下記 URLからです。
            http://medical.nikkeibp.co.jp/all/data/ds-pharma/bis070830.pdf 2007 )更に、「維持血液透析患者 421 例を対象に手末梢血管のメンケベルグ型
            石灰を検討した。血管石灰化の発症は、非糖尿病患者 332 例中では45例(13.6%)であったが、糖尿病患者 89 例中では42例(47.1%)に認め、さらに
            血管石灰化がみられた糖尿病患者のHbA1c 値は約 7%なのに対し、血管石灰化がない糖尿病患者群のHbA1c 値は約 6%であった。」と。

             血管石灰化がない糖尿病患者群のHbA1c 値と血管石灰化がみられた糖尿病患者のHbA1c 値との間には、僅か1%の違いが存在するだけ。いかに
            糖尿病性腎症の患者さんは、血糖値の管理を適切にするかが血管石灰化を防ぐ方策のように推測されますが、どうでしょうか。*

          付記 1
           https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2012/37.html 「骨疾患や糖尿病発症に関わるタンパク質の構造と機能を解明」 共同研究

           東京大学大学院理学系研究科の濡木理教授、東北大学大学院薬学研究科の青木淳賢教授、大阪大学蛋白質研究所の高木淳一教授らは、骨形成
          やインスリンシグナルにかかわるEnpp1タンパク質のX線結晶構造を解明することにより、骨疾患や糖尿病の発症メカニズムの一端を明らかにしました。
          Enpp1はピロリン酸を産生する細胞膜結合型の酵素で、過剰な骨形成を抑える役割を担っています。Enpp1の遺伝子変異は重篤な骨疾患を引き起こし、
          Enpp1の遺伝子多型は肥満や2型糖尿病とも関連することが知られていました。
           しかし、Enpp1の変異や多型が病態を引き起こすメカニズムは不明でした。

           研究グループは生化学的解析とX線結晶構造解析を行い、Enpp1遺伝子に変異が起こると、Enpp1の分子構造がくずれることで酵素活性が低下し、骨
          疾患に至ることを明らかにしました。本研究の成果は、Enpp1が関与する骨疾患や糖尿病をターゲットとした創薬の基盤となることが期待されます。

           本研究成果は、2012年10月第一週に米国科学雑誌「米国科学アカデミー紀要」のオンライン速報版で公開されました。

                     付記 2
           血管の石灰化が進行している糖尿病腎症・及び非糖尿病腎症の患者さんは、現在の一般透析病院・各地の市民病院透析部での進行阻止対策は、あま
          り期待できない状況かと。
           私の知りうる患者さんは、結局通院透析病院と市民病院の間を言い方は悪いですが、たらいまわしされ、その対策手法を持たないのか、しないのか分か
          り兼ねますが、何もされなかったと思われます。

           某Drの掲示板に、血管石灰化及び心臓弁の石灰化の進行に対処する方法が記述されている。その方法は、保険診療外の事項に相当し、あくまで該当す
          る薬(認可されている薬)代のみ全額自己負担による自己責任でのみ出来うる事のように推測致しました。詳しい事は、下記 URLを参照されたい。
           http://www.hdf.jp/bbs/c-board.cgi?cmd=one;no=34959;id=#34959  http://www.hdf.jp/bbs/c-board.cgi?cmd=one;no=34960;id=#34960

           http://www.hdf.jp/bbs/c-board.cgi?cmd=one;no=34967;id=#34967  http://www.hdf.jp/bbs/c-board.cgi?cmd=one;no=34969;id=#34969  以上です。

         付記 3
          http://www.kyorin-pharm.co.jp/prodinfo/useful/doctorsalon/upload_docs/150359-1-15.pdf  参照

          必要個所の抜粋
           「薬剤の使用と腎機能の関係でいいますと、透析学会ですとか腎臓学会などから出されている指針は、今度はeGFRではなくクレアチニンクリアランスになって
          しまいますけれども、それが50㎖/minを超えていれば腎障害に関係なく薬剤を使うことができますが、10〜50㎖/minのクレアチニンクリアランスの場合にはいろ
          いろ注意が必要になるということになります。粗鬆症の薬剤でいいますと、とりわけクレアチニンクリアランスが30㎖/minを切るような方では、多くのビスホスホネ
          ートが禁忌、あるいは慎重投与ということになっています。投与が望ましいと考えられる患者さんに対しては、慎重投与という扱いになっている薬剤を選んでいた
          だくのがよいと思います。アレンドロネート、ミノドロン酸、この2種類は慎重投与で使えますので、注意して使用していただければ大丈夫だと思います。
           一方でPTH製剤は、これは腎不全が進むにつれて続発性の副甲状腺機能亢進症が起こる、すなわちPTHが上がるという状況ですから、使いにくい薬剤となり
          ます。PTH製剤については今のところ経験が乏しいので、その辺は現在、腎臓の専門の先生方が積極的に取り組んでおられますから、いずれそういったエビデ
          ンスあるいは情報が出てくると思います。
           腎機能に影響なく使えるということで注目されているのがデノスマブという抗RANKL抗体です。生物学的製剤ですけれども、これは薬剤そのものが腎排泄です
          とか腎代謝がないので、そういった意味では腎障害のある方にとって非常に使いやすい薬剤といえます。ただ、一方で、この薬は非常に強力に骨吸収を抑えて、
          血中のカルシウム濃度を低下させるという作用がありますので、とりわけCKDのステージ4以上の腎機能の悪い方では、低カルシウム血症に対しての慎重な配
          慮が必要になってきます。先ほどのデノスマブという薬剤ですと、投与後1〜2週間目の血中カルシウム濃度や、低カルシウム血症によるテタニーなどの症状に
          注意を払っていただくことが大切だと思います。」


          

           

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